【短編】よわ虫kiss
ほら、ね。
やっぱり、大和はよわ虫だ。
いつ聞いたんだか知らないけど、知ってたのにそんな顔して…
あたしに言われるの分かってたのに、そんな顔しちゃって…
よわ虫…
よわ虫大和。
「知ってたなら丁度いいや。
…そうゆう事だから」
自分が出した声が掠れていた事に、少し戸惑いながら手元のボールを磨こうとした。
だけど、手に力が入らなくて…
体中に力が入らなくて…
いう事を聞かない。
まるで自分の体じゃないように力が抜け落ちてしまって、手の中のボールを落とさない事に必死だった。
熱くなっている瞼を誤魔化そうと、キュッと口を結びながら力の入らない手でボールを握る。
「野球部辞めるのは分かったよ。
だけど、彼女辞める必要はないだろ?」
大和の声に、あたしは唇を噛んでから口を開いた。
「あるよ。
あたし達、幼なじみの方が上手くいってたし。
…大和の女好きのところ、いい加減嫌になった」
本音なんか言ったら涙がこぼれそうで、適当な嘘を言う。
横からの大和の視線が苦しいくらいに痛くて、あたしは大和とは反対を向いた。
…そんな目で見つめないで。
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