【短編】よわ虫kiss


ほら、ね。

やっぱり、大和はよわ虫だ。


いつ聞いたんだか知らないけど、知ってたのにそんな顔して…

あたしに言われるの分かってたのに、そんな顔しちゃって…


よわ虫…


よわ虫大和。



「知ってたなら丁度いいや。

…そうゆう事だから」


自分が出した声が掠れていた事に、少し戸惑いながら手元のボールを磨こうとした。

だけど、手に力が入らなくて…


体中に力が入らなくて…

いう事を聞かない。


まるで自分の体じゃないように力が抜け落ちてしまって、手の中のボールを落とさない事に必死だった。


熱くなっている瞼を誤魔化そうと、キュッと口を結びながら力の入らない手でボールを握る。


「野球部辞めるのは分かったよ。

だけど、彼女辞める必要はないだろ?」


大和の声に、あたしは唇を噛んでから口を開いた。


「あるよ。

あたし達、幼なじみの方が上手くいってたし。

…大和の女好きのところ、いい加減嫌になった」


本音なんか言ったら涙がこぼれそうで、適当な嘘を言う。

横からの大和の視線が苦しいくらいに痛くて、あたしは大和とは反対を向いた。


…そんな目で見つめないで。


.

< 35 / 61 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop