【短編】よわ虫kiss
そういえば…
一度も「好き」って言わなかったっけ。
こんな事になるなら言っておけばよかったかな…
好きだよって。
大和だけが大好きだよって…
なんて…もう何を思っても遅いからそんな事思うんだろうけど。
重い足を上げて、あたしはいつもより1時間も早く部屋を出た。
部員は30分前に来るようにって言われてたから…
大和と顔を合わせないように。
あたしは…
今、大和と顔を合わせて平気なほど強くないもん。
きっと今顔を合わせたら、あたしは笑えない。
目を逸らされたら、泣くかもしれない。
強がってばかりいたけど…本当は弱いから。
大和がいないと、強がりもあまのじゃくも、何も出せないから…
顔を合わせたくないなら今日にでも野球部を辞めればいいんだけど…
だけど、
せめて、野球をする大和を見ておきたい。
…もう、見られなくなるから。
だから、大和を見ていたい―――…
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