アイツ限定
「ったく……。なんであんなイケメンを、マリは無視するかなぁ」
その日の帰り、あたしは明日香と帰り道を歩く。
空は、もう既に茜色に染まっていた。
優しい光があたしたちを温かくつつみこんでくれているように思えた。
「あんな男、見かけだけだし。
ああー、あの席最悪。明日香変われっ」
あたしはため息交じりで答えると、明日香もはぁ…とため息を返してくる。
「私も変われるもんなら変わりたいよっ!私の隣なんて、小池だよ?」
明日香は、悲しそうに下をむいて、再びため息をはく。
「それは、ドンマイ。あたしのときもしつこかったしね。鳥肌立ちまくり」
あたしたちの言う小池とは小池直哉(コイケ ナオヤ)のこと。
かなりのメンクイで有名で、多分あたしに告白してきた回数が1番多い奴だと思う。
初めは、ロッカーに呼び出しの手紙が入っていて、あたしは無視してた。
そのあとから、打たれ強い小池はあたしのクラスまで告白しに来て、本当に迷惑だったのを覚えている。
クラスが違ったのが不幸中の幸いって思ってたのに…
「今日さっそく言われたよ。付き合って下さいって……。もう何回目よ」
明日香の声がだんだんと落ちていくのがわかる。
「あたしだって最悪だし。同じクラスなんだから」
「だよね。マリ、今まで小池から告白何回された?」
「え?覚えてるはずないじゃんっ!いちいち数えるかよそんなの」