君への一歩
放課後
部活勧誘も終わり、遥香は帰る準備をしていた。
「...あの子の名前なんて言うんだろう...」
そんなことを1人呟き、部室を出ようとした瞬間、静かに扉が開く...
「あっ」
そこには、先程みっちり説教をしてきた、顔もまともに見たくない相手...隼仁が立っていた。
「...天霧か...帰り?」
「お、おう」
「そっか、ばいばい」
遥香がそっけない態度でそう言い、部室の扉に手をかけると...
「あっ、ちょっと待てよ!」
「ん?!」
遥香は呼び止められ、驚いて隼仁の方を見た。
「あ...のさ...あーーー...やっぱなんもねえ...」
特に隼仁の方もこれ以上説教等する様子でも無かったので、遥香もいつも通り笑った。
「はいっ?!何それ...ははっ!何でも言ってね」
「...」
そう言って遥香は今度こそ部室を出ていった。
しばらく遥香の遠ざかる足音を聞いていた。
そしてまた深いため息とともに、隼仁は独り言をぽつりと漏らす。
「はぁ...また...言えなかった...」
そして...静かに空は今日も暗くなっていく...。
この日、この時ーーー、運命の歯車が動き出した事を、少年少女たちは知らずにいたーーーーー。