執事くんはお嬢様に溺愛
これで落ち着いて寝れる…。
そんな風に思ったローラだったが、熱がつらいということ以上に、寂しさが訪れた。
「…………」
先ほどアッヒェンベルが口付けを落とし、ずっと握ってくれていた手を見つめる。
まだ彼の温もりがあるように思う。
熱がある時は、よく心細くなるものだ。
それだと自分に言い聞かせ、眠りにつこうとするローラ。
目をつぶった瞬間に、目の縁に溜まっていた滴が、ポロっと流れ落ちる。
まだアッヒェンベルがローラに仕えることになるずっと前。
ローラがまだ幼い頃、こうして熱が出たことがあった。
父も母も使用人も、もちろん心配してくれたが、小さいながらに皆忙しいということは分かっていたので、迷惑をかけまいと、一人で大丈夫だと、部屋の中で大人しく横になっていた。
ここ近年では、ローラの側には常にアッヒェンベルがいた。
今も、熱で苦しむローラの側にずっといてくれた。
そうか…。いつの間にか私は、アッヒェンベルが側にいることが当たり前になっていたのだ。
「……アッヒェンベル……」
小さな声でローラが彼の名を呼ぶ。
すると、突然扉が開く音がした。
驚き起き上がるローラ。
ノックもなしに、扉が開くことなどほぼない。何事かと扉へと目を凝らす。
部屋の中に入ってきたのは、アッヒェンベルだった。