執事くんはお嬢様に溺愛
「ア、アッヒェンベル!?」
先ほど、出ていったばかりのアッヒェンベルの姿がそこにあった。
「な、なんでだ?」
カツカツ…とローラの元へと来るアッヒェンベル。
「お嬢様に呼ばれたので、このアッヒェンベル、参りました」
驚くローラ。本当にほんの小さな声でも彼には届いていた。
嬉しい反面、本当に現れたアッヒェンベルに驚く。
まさか、ただ呟くように言った彼の名にも反応してくれるとは。
「さ、お嬢様、横になって下さい」
起き上がっていた、ローラの背中に手を添え、横になるよう促すアッヒェンベル。
そんな彼を見つめながら、大人しく再びベッドへと横になるローラ、
「父様のところは…」
「大丈夫です。お嬢様はお気にせず」
「だが…」
なおも口を開こうとするローラの口元に指を添えるアッヒェンベル。
「お体に触ります。もうお休みになって下さい」
笑みを浮かべ、再びベッド脇に跪くアッヒェンベル。
「そうです!!眠れないのでしたら、私がお嬢様のために子守唄を……」
「それだけは、やめてくれ」
今にも本気で歌い出しそうなアッヒェンベルを止める。
「……だが、手を握っていてくれないか…?」
ローラからアッヒェンベルへと手をおずおずと差し出す。
ほんの一瞬、目を見開いたアッヒェンベルだったが、すぐに満面の笑顔を浮かべ、勿論です!と勢いよくローラの手を握る。
手の温もりを感じながら、目を閉じるローラ。
もう、寂しさは感じなかった。
ローラがいないとアッヒェンベルが駄目なのではなく、
アッヒェンベルがいないと自分が駄目になってしまったのではないか、と薄れ行く意識の中、ローラは思ったのだった。