恋に、落ちる
5.
 大宅さんはとても楽そうなデニムに、いろんな大きさのギンガムチェックの青いシャツと黒いコットンのニットのパーカーを着ていた。走ったせいか暑そうで、パーカーを腕まくりして、パーカーの袖口から青いシャツのカフが覗いているのが可愛かった。それから黒いコットンの薄手のコート腕にかけていた。パンダ橋を公園口のほうへ渡る大宅さんは私のほんの一歩か二歩前を歩いていて、後ろから見ると男の子みたいなので、私は、本当にデートだな、とぼんやりと思った。パンダ橋の中ほどで、
 「動物園って手もあるけど、好き?」
 と、大宅さんは私を振り向いて言った。
 「動物園?」
 大宅さんは私の反応を見て
 「なしね」
 と片手を挙げてまた歩き出した。
 それからパンダ橋から公園口に降りる階段でまた振り向きながら
 「絵と散歩、どっちがいい?」
 と、尋ねた。
 「両方。」
 と、私はすかさず答えた。大宅さんはなぜか少し得意そうに笑って
 「どっちから?」
 と、私に手を伸ばした。あまりに自然な動作に私は思わず大宅さんの手をとって、少し考えた後に
 「じゃぁ、絵から。」
 と答えた。
 公園口から横断歩道を渡って来たカップルの女の子の方がこちらを見て、多分私の気のせいなのだろうけれど、私たちがつないでいる手を見たような気がした。それで私は焦って手を離そうとして手に力を込めたのだけど、大宅さんは思いの外強く私の手を握っていたので解けなかった。
 「ねぇ、ヘンじゃない?」
 私はもう一度手に力を込めて言った。
 「ヘンじゃないよ。」
 と大宅さんは言った。その答えはいやに自信に満ちていたので、私は思わず「そうかな」と納得しそうになって、
 「いやいやいや、おかしいでしょ。」
 と急いで否定した。大宅さんは至極真面目な顔をして「何が?」という顔をした。
 「お、女の子同士とか。」
 と、私が言うと、大宅さんは少し無愛想になって、私の手を離し、諦めたように歩き出した。
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