センセイの好きなもの
そう、自分で決めたこと。


『母さんに会いたかったらいつでも言えって言われてた。だけど俺も自分のことで精一杯だった。もしかしたら母さんは再婚してるかも知れないとか勝手に思ってたし…。俺のほうこそごめん』


誰が悪いなんてそんなものはきっと無い。あのときは俺も辛かったけど、親父だって母さんだって同じように辛かったに違いない。


『喜美子、もう一度みんなで暮らさないか。家族なんだから。巧だって母さんがいたら嬉しいだろう』


あと3ヶ月。その中でどれだけ生きられるか分からない。俺は母さんに何をしてやれるのかな。何も出来ないかも知れない。だけど何も出来ないとしても、一緒にいるだけで意味があるはずだ。


『母さん、帰ってきてよ。昔みたいに色んな料理作ってよ』


母さんは驚くほど強い力で俺の手を握った。


『巧、ありがとう。あなたも…ここまで巧を育ててくれてありがとう』


どんなに時が経っても親子なんだ。両親が出会わなければ俺はいなかった。
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