センセイの好きなもの
母はそれから一週間で退院した。痛み止めなどの薬を貰うためや経過観察などで通院はあるけれど、もう治療法はない。
今までも癌を患ってきた母だから、主治医からの余命宣告にも動じなかった。ずっと覚悟していたという。


母は独りで暮らしていたアパートから家に戻ってきた。家は母がいなくなったこと以外、あの日から変わっていない。築年数が経って古くはなったけれど。

住宅街の一角にある普通の一戸建てで、小さい庭には昔は花や野菜が育っていた。母が手入れをして色々育てていたんだ。親父と二人になってからは枯らしてしまったけれど。


「不思議なんだけどさ、母さんは昔と変わらずに家にしっくり馴染んでたんだよな。ずっと離れてたのに、そこにいることに違和感がないんだよ。ここが帰るべき場所だったんだろうなって感じた」


「お母様も嬉しかったでしょうね。またみんなで暮らすことが出来て」


「ああ。いつも言ってたよ。戻ってこられて良かったって」
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