センセイの好きなもの
ツムは一喜一憂しながら話を聞いてくれている。時には泣きながら。泣きすぎて鼻の頭が少し赤い。瞼もパンパンだ。
まったく知らない俺の母のことなのに、こんなに感情移入するとは思いもしなかった。


「お母様の体調はそれからどうなったんですか?」



母は頻繁に入退院を繰り返した。肺に出来た癌のせいで呼吸が妨げられることがよくあったんだ。
自宅でも酸素吸入を備えていたけど、それでは応急処置にすらならなかった。
再会したときよりも日に日に痩せて、骨が折れてしまいそうなくらいガリガリになってしまった。

俺はアルバイトの日数を減らして、大学の授業が終わるとすぐに家に帰った。母を一人にしておくことがとにかく心配だった。
もしも倒れたら、呼吸が出来なくなったら―――。それがいつも頭から離れなかった。


親父も事務所での仕事を早めに切り上げて家で仕事をしたり、時にはみち子さんが様子を見に来てくれたりしていた。
気がつけば母の余命である3ヶ月がとっくに過ぎていた。自宅での暮らしの中で生命力が湧き出ていたのかも知れない。


< 106 / 234 >

この作品をシェア

pagetop