センセイの好きなもの
仕事中の先生はさっきとは打って変わって、ピシッとしている(当たり前だけど)。
爆発したようなものすごい寝癖は嘘のようになくなり、グレーのタイトなスーツに白いワイシャツ、太めの黒いネクタイ。
少し尖ったダークブラウンの革靴はピカピカだ(昨日、私が磨いたんだけど)。
「いつも思うけど、小さい子を抱えて離婚なんて大変よね。近くに親とか頼れる人とかいるならいいけど…」
みち子さんは応接室をチラリと見ながら言った。
離婚相談に来ているのは28歳の女性で、3歳の男の子を連れて来ていた。
「生活面はもちろん、子どもの預け先なんかも今はどこもいっぱいですからね。夜間に預けるとなると料金も高くなるし…」
みち子さんの正面のデスクに座る吉川先生は、過払い金請求の書類を作っている。