センセイの好きなもの
「親父たちが離婚したときに母さんについて行ったら、癌になったりしなかったのかなって、よく思った。でもそしたら俺は弁護士になってなかっただろうし…。親父と一緒にいるうちに漠然と目指し始めて、でも母さんの最後の言葉で本格的に勉強し始めたんだ。みんなそれぞれ自分で決めたことだもんな。後悔なんてしてない。だけど…もっと早くに会ってれば何か違ったかも知れないよな」



どこかで何かが違っていたら…。思い始めたらキリがない。何が正しくて正しくないのか。
その瞬間を生きていくしかないんだ。


「巧先生のお母様、とっても素敵です。生きてらっしゃったら会ってみたかったな」


ツムは真っ赤な目をして微笑んだ。
会ってみたかった、か。


「ツム、俺の話を聞いてくれてありがとう。こんな話は誰にもしたことがなかった。何でかな…ツムには聞いてほしくなって」

「えっ、玉井先生も知らないんですか?」


目をパチクリさせながら心底驚いている。
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