センセイの好きなもの
「付き合う前のことだから、いつか言おうと思いながら言えないまま別れた。だから俺のお袋はどこかで生きてるって思ってたんじゃないかな。長年付き合って言わないままって最低だよな」


“大事なことをキチンと話さない”

言われて当たり前だ。
親父の事務所で働くことも、前の事務所を辞めたことも全部事後報告だった。

お互い忙しくて連絡もまともに取っていなかった時期だけど、そんなのは言い訳にしかならない。


「まあ愛想尽かされたってわけ。ツムは変な男に引っかかるなよ。見た目だけじゃ分からねーんだから」


「私、モテないし…色気もないし、可愛くもないし」


そういうところが可愛いんだよ、ばか。


「ツム、困ったこととか悩みとかはすぐ言え。一緒に飯食ってんだから、遠慮するなよ」


クルクル頭をわしゃわしゃする。ツムの髪の毛は一気にぐしゃぐしゃになった。
俺の言葉に一瞬戸惑ったように眉根を寄せる。そのあとでゆっくり頷いた。ツムは何を抱えているんだろうか。
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