センセイの好きなもの
そういえば巧先生は私にスペアキーを渡すと言っていた。
まだ貰っていないけど、自宅の鍵を渡すなんて信頼出来る相手じゃなきゃ出来ないこと。


いつまでも黙っているわけにはいかないことは分かってる。
いつかは言わなくちゃいけない。
母が現れたとき、巧先生に迷惑をかけるかも知れないから。



「早めに話してみます」


「それがいいわね。それはそうと…つむちゃんに大事な話があって」


にこやかだった百合子先生の表情が一変する。

反射的に嫌な予感がして、胸がドクンと強い鼓動を刻む。


「実はね、昨日の夜つむちゃんのお母さんがここに来たのよ」


やっぱり母は私を探しているんだ…。
大先生のところでお世話になり始めてからは、まだ私の前には現れていない。

でもそれも時間の問題だろう。
あの人はいつも突然、私の生活を壊しにやってくる。そして私はその度に逃げた。
見つからないようにひっそり暮らしているつもりでも、どこからか嗅ぎつけてくる。
ハイエナのように。
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