センセイの好きなもの
高村さんのご主人は巧先生が提示した条件を了承したという。
あんなふうに怒った奥さんを初めて見たことと、玉井先生の言い分によって自分の負を受け入れたらしい。
煌成くんはベソをかいたまま抱っこされて帰って行った。
親子二人で新たに生きて行くスタートラインだ。これから先、幸せに生きて行けるといいけれど…。
仕事を終えて駐輪場に向かおうとしたとき、正面から玉井先生がやって来た。
巧先生に用かな…。
先生たちはまだ全員仕事をしている。営業時間が終わってもやることがたくさんあるらしい。
「こんばんは。三上さん、だったかしら」
「はい。あの…巧先生なら中にいらっしゃいます」
怯んでなるものかと思うのに、後ずさりしてしまいたくなる。何というか、威圧感が半端ないんだ。
「巧じゃなくて、あなたに用があるのよ。ちょっと付き合って。お酒飲めるでしょう?」
玉井先生は私の腕を掴むとグイッと引っぱって、駅前に向かってずんずん歩き出す。