センセイの好きなもの
「巧に頼まれたのね?そう言ってくれって」


「……やっぱりバレますよね」



私は巧先生から聞いたことを正直に話した。別れるに至った経緯、そのときに玉井先生に言われたこと、それによって私と付き合っていると嘘をついたこと。


「ったく、巧もどうしようもないわね。だってさ、長年付き合ってきた男が大事なことを黙って一人で決めちゃうのよ?相談してほしいわけじゃない。最後に決めるのは自分だからね。
けど、どんなに忙しくて連絡を取ってなくてもやっぱり大事なことは言うべきでしょう?
前の事務所を辞めたことも、功先生のところで働くことも全部事後報告。そりゃ私はいつかは独立する夢があったけど、巧が自分の親の後を継ぐんだろうとは思ってたし、言ってくれれば私だって一緒にやっていきたかったわ…」



二人はすれ違ってしまっただけなんだ…。
巧先生はずっと言い出せなくて、でもそれは玉井先生の夢を知っていたから。
玉井先生は巧先生が言ってくれるのを待っていた。
何かが違っていたら今頃二人はきっと一緒に…。
< 133 / 234 >

この作品をシェア

pagetop