センセイの好きなもの
「まあ、過去のことを今更どうこう言ってもね。お互いに違う人生を選んだわけだし。ところで、何でツムって呼ばれてるの?」


玉井先生はビールをグイッと飲み干すと、タッチパネルでビールを注文する。また大ジョッキ…。しかも私のグラスにはまだ半分くらい残っているのに、レモンサワーでいいかと聞くと返事する間もなく注文されてしまった。



「私、つむみっていうんです。紡ぐに実る、で。昔からそう呼ばれてたんですけど、私、背が小さいじゃないですか。だから巧先生がカタツムリのツムだって」


「カタツムリかぁ。巧もよくこじ付けたもんね。それじゃあ私もツムちゃんて呼ぶわ。私のことは紗絵でいいから。堅苦しいことは抜きね。ところでツムちゃん、巧のこと好きなの?」



ストレートな質問に思わず唐揚げをつかみ損ねてしまう。

巧先生と一緒にいる時間は好きだ。
初めて紗絵さんが事務所にやって来たとき、巧先生の元彼女だと知って胸がチクンとした。
私の天然パーマが好きだと言ってくれた。
口裏を合わせるためにお互いの好きなところを言い合ったときのことだから、本気じゃないと思うけど…嬉しかった。
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