センセイの好きなもの
「母は生活していくお金がなくなって、私は施設に預けられたんです。住み込みの仕事をするからお金が貯まったら迎えに来る、そう言って。そのときはいつか迎えに来てくれると信じていました」
巧先生はじっと黙って私の話を聞いてくれる。普段のくだけた表情ではなく、仕事をしているときと同じ真剣な顔で。
「母は時々、手紙や新しい服や靴を送ってくれたこともありました。でも…一度も会いに来てくれなかった」
もう15年以上も前のことなのに、思い出すとどうしても寂しくなる。
なぜだろう。
「私が8歳のときに母が施設にやって来ました。母は私がそれまでに見たことがない、とても上品なスーツを着ていて、でも普通のお母さんとは程遠い、どこか違う派手さもあって…。あの赤い口紅を引いていました。
母は私や施設の子たちにお土産をたくさん持ってきてくれて。久しぶりに母に会えたことも嬉しかった。でも母は言ったんです。
再婚するから私を連れて行けないって」
母はあのとき、幸せな人生を歩んでね、と言った。
巧先生はじっと黙って私の話を聞いてくれる。普段のくだけた表情ではなく、仕事をしているときと同じ真剣な顔で。
「母は時々、手紙や新しい服や靴を送ってくれたこともありました。でも…一度も会いに来てくれなかった」
もう15年以上も前のことなのに、思い出すとどうしても寂しくなる。
なぜだろう。
「私が8歳のときに母が施設にやって来ました。母は私がそれまでに見たことがない、とても上品なスーツを着ていて、でも普通のお母さんとは程遠い、どこか違う派手さもあって…。あの赤い口紅を引いていました。
母は私や施設の子たちにお土産をたくさん持ってきてくれて。久しぶりに母に会えたことも嬉しかった。でも母は言ったんです。
再婚するから私を連れて行けないって」
母はあのとき、幸せな人生を歩んでね、と言った。