センセイの好きなもの
「増田さんは白金のご自宅、弟さんは那須の別荘、妹さんは葉山の別荘でよろしいんですよね?」
「違う違う。葉山はもう一人の弟で、妹は赤坂のマンションですよ」
「えっ、赤坂のマンション?!」
午後、応接室にお茶を持っていくと吉川先生はファイルをめくりながらあたふたしていた。
クライアントは70代の男性で、亡くなった父親が所有していた物件の相続について。
生前に作成したという遺言状には、それぞれが欲しい物件のことが書かれていたそうで、それに沿って依頼を進めているらしい。
「それと銀座に小さいビルがあって、空いてるところが多いし…建て直すのもお金がかかるからそこは処分したい」
「この前はそんなこと言ってなかったじゃないですか」
吉川先生はイレギュラーな出来事には弱い。何だかんだ泣き言を言っても仕事はきっちりこなすけれど、私から見てもこの人に任せて大丈夫だろうかと時々思ってしまう。
「言ってなかった?とにかくそういうことなんで」
「そういうことじゃないですよー!」
吉川先生が頭を抱えたのは言うまでもない。