センセイの好きなもの
巧先生はぐいっと近づいてきて、私の鼻先で言った。


「俺も男だっていうこと」


「えっ?」


それじゃあ、巧先生を私のことを…?


「ゆすられたとき、ツムの声は認識してた。でも目が開かなくてなー」


「だったら声くらい出してくれれば…」



そしたらあんなことにはならなかったのに、と思ってぶんむくれていると、巧先生は笑いながら私の頬をつねってきた。


「俺はツムのこと、可愛いと思ってるよ。本当に寝ぼけてたとしても何とも思ってない相手にあんなことはしない」



本当は寝ぼけてなかったっていうことか…。それなら尚更、素直に起きていればみち子さんのゲンコツもなかったのに。


「…それならいいです」


巧先生は口いっぱいにハンバーグを詰めこむと、もぐもぐしながら言った。



「それよりツム、俺の呼び方を変えてくれよ」


「…は?」


「家でも仕事でも先生、先生って言うだろ。まあ仕事のときはいいんだけど、親父だって颯だって“先生”だからな。でも家くらい違う呼び方にしてくれよ」
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