センセイの好きなもの
うんざりとでも言わんばかりに、大きなため息をつかれる。しかもわざとらしい。

違う呼び方をしろと言われても、先生は先生だし…。親しい間柄ならまだしも。



「先生は先生ですよ」


「巧でいいよ」


巧、ね。

…ん?巧?

ないないない。呼び捨てなんて絶対ない!


「無理です!」


「俺がいいって言うんだからいいだろう。俺なんかお前のこと、初対面からツムだぞ」


カタツムリの“ツム”。

あのときは呆気に取られたけど、思い返してみれば失礼な話だ。

だってテレビの占いのラッキーポイントが、イニシャルが同じ人。
それで私は採用されて、おまけに小さいからとカタツムリ呼ばわり。



「人のことカタツムリ呼ばわりして、ホントに失礼な話ですよ!」


「怒るなって。あのときから可愛いと思ってたぞ?」


巧先生は私の髪の毛をぐしゃぐしゃにする。もっと優しく撫でてくれたらいいのに。

嫌いじゃないけど…。



「紡実」


不意に名前を呼ばれて、心臓が跳ね上がる。
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