センセイの好きなもの
みち子さんたちが私の話を受け入れてくれなかったら、もう事務所にはいられない…。

だけどずっと黙っていて最悪の事態が起きたら?
母が事務所に来ないとは言い切れない。

そうなったら多大な迷惑をかける。



「先生、私…怖いです。もしダメだったら…」


「ダメだったとしたら、俺も一緒に事務所を出るよ。働くところはいくらでもある。独立したっていいんだし。心配するな。ツムの食いぶちくらい俺が稼ぐ。勇気を出して、もっと人を信じろ」



人を信じる―――。


そういえば巧先生に話したときも、この言葉を思い出したんだ…。

巧先生のお母様も百合子先生も言っていた言葉。


「今は一人じゃないだろ」


「はい…。巧先生がいます」



私はずっと一人だった。施設を出て一人で生活を初めて、それから母と再会して逃げ続けてきた。
だけど大先生と知り合って、いつの間にか巧先生が隣にいた。
みち子さんも吉川先生もきっと分かってくれる。私が人を信じなくちゃ何も始まらないんだ。

泣きそうになるのをぐっとこらえた。
< 185 / 234 >

この作品をシェア

pagetop