センセイの好きなもの
週明け。
仕事が始まる前に巧先生に促されて、私は隠し続けてきた自分の事情を話すことになった。
前もって巧先生には、簡潔にかいつまんで話すようにと言われていたから、何度も頭の中で整理をしていた。
母と離れて施設で暮らし始めたこと、母の再婚で施設に残ったこと。
調理士を目指して勉強していたこと、そこへ母が現れてお金を要求され、職場にも押しかけられて仕事も学校も辞めて地元を離れたこと。
それでもことごとく母に見つかり、転々としながら逃げ続けていたこと。
百合子先生の紹介で大先生に出会って、ここにやってきたこと。
「ご迷惑をかけるようなことがあるかも知れません。母はいつどこで私を見つけるか分からないし…。もしかしたらここに来るかも知れません。でも私、ここで働きたいです。何も出来ないけど…。この街で暮らしたいです」
静まり返った空間の中、それを打ち破るかのようにみち子さんが私を抱きしめてくれた。
みち子さんは少し泣いていて、鼻水をズズーッとすすっている。