センセイの好きなもの
「駅から離れてるんですよ。それに電車が止まったら帰れなくなるし…」



吉川先生は今にも泣きそうな顔でブツブツ呟いている。こういうとこ見ると頼れないなと思ってしまうんだよね…。
でも電車が止まって足止めされるのは可哀想。大雨のときは傘すら役に立たないし。



「それならタクシーで帰れよ」


「嫌ですよ。金かかるじゃないっすか。それに雨の日はタクシーつかまりにくいの知ってるでしょ」


……この二人はモメないことってないのかな。ギャーギャー言い合っている二人を見て、大先生は呆れたようにため息をついた。



「よし、こうしよう。みんなでメシ食って帰ろうじゃないか。僕が奢るけど、まだそうやって喧嘩しておく?あ、それともツムちゃんと二人で行こうかな。ツムちゃん、どう?僕とデートしない?」


「…いいですね。たまにはお付き合いします」



大先生につられて笑顔になってしまう。

正直、人の多いところはまだ怖い。どうしても苦手なんだ。
どこかに母がいるような気がして。見つけられてしまいそうな気がして。
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