センセイの好きなもの
「ツムちゃんのお母さんて随分若いのね。私よりずっと年下なんだもの、びっくりしたわ」
みち子さんは息が上がっている私に冷たい麦茶を出してくれた。
暑さで喉が渇いていたし、一気に飲んでしまった。ドキドキした気持ちが少し落ちつく。
「ていうか、みち子さんてホントは何歳なんすか」
「女に歳を聞くもんじゃない!」
吉川先生はみち子さんにキッと睨みつけられて、静かになってしまう。
巧先生は母を連れて応接室に入った。
それを追いかけるかのように大先生も―――。
母はどうやってここを探し出したんだろう。いつもどんな手を使って私を探し出すんだろう。
もう怖がっている場合じゃない。
巧先生は前に、みんな私の味方だと言ってくれたし、私もここで決着をつけたいから。
「大丈夫よ。功先生も巧先生も腕がいいんだから。心配することない」
「そうだよ。俺だっているし」
「吉川くんはまだ半人前でしょ。そういうことは一人前もなってから言いなさい」
私は一人じゃない。そう言い聞かせて、自分の手を強く握りしめた。