センセイの好きなもの
「ツム、前に飲み屋のオバちゃんに声かけられたって言っただろ?この人だよ」


「あら、覚えててくださったんですか?」


「わざと巧先生に近づいたの?」


きっと何もかも調べて来たんだ。いつも母が現れたときには全部知られている。勤め先も住んでいるところも。


「やめてよ。巧先生にまでタカるつもり?ここは弁護士事務所なのよ。迷惑かけるようなことしないで」


「ツム、落ちつけ」


巧先生は私の胸の前に腕をサッと出して牽制した。


「三上さん。もし何かトラブルを抱えているのなら私が解決します。報酬は必要ありません。お金が必要ならそれも私が用立てます。その代わり包み隠さず過去のことを話してください。今まで彼女は自分の生活を守るために、あなたから逃れようと生きてきた。だけどそんなのはもう終わりです」



私が今まで聞いたことがない、淡々とした冷たい声で話していく。
だけど母も顔色を変えない。


「さっき会ったばかりの私にお金を…?やっぱり弁護士先生はお金持ちなんですね」
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