センセイの好きなもの
「弁護士が金持ちなんてのは一握りです。それはどんな仕事でもそうでしょう？お金はあなたと紡実さんの手切れ金です」


「先生、そんなのダメです。こんなことに先生のお金を…」



巧先生は黙ってろと言わんばかりに私を見てきた。



「親子なのに手切れ金なんて、どうしてです？」


「それでは申し上げます。彼女と最初に再会したのは、彼女が18のとき。職場と自宅に押しかけたと聞いています。職場での金の無心により彼女は仕事を辞めざる得なかった。そして当時通っていた専門学校も辞めた。どうしてか分かります？あなたから逃げるためですよ」



一瞬、母の顔色が変わったような気がした。あのときのことを憶えているのだろうか。



「自分で働いて生活をして、高い学費を工面して通っていた。夢を叶えるために。それを失って、母親の度重なる金の無心に怯えて逃げながら生きて。想像したことがありますか？息を潜めて生きることがどういうことか」


巧先生が怒りを押し殺しているのが分かった。声は冷静だけど、その中に感情が詰まっている。
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