センセイの好きなもの
「彼が勤めていた会社が倒産して、社長が夜逃げしたんです。自暴自棄になった彼は酒浸りになった。私に水商売か風俗で働いてこいと迫ってきて…。紡実は当時3ヶ月、酒浸りの彼に紡実を任せて夜の仕事なんて出来ないと言ったら殴られました」



今の私の年齢のときに母は私を育てながら働いていた。頼れる人もなく、全部自分一人で背負って。
それがどれくらい大変なことなのか、私には想像もつかない。



「離婚して家を出て、ホステス時代の友人の家に居候させてもらいながら仕事をしました。紡実を保育園に預けて、少し大きくなってからは夜は一人で留守番もさせました。今みたいに夜間預かってくれるようなところはありませんでしたから…。朝から晩まで休みなく働いて、そのうち疲労とストレスで体を壊しました。仕事を辞めざる得なくて、結局またホステスとして友人のスナックで働き始めたんです」



あの頃いつもお酒の匂いがしていた。

朝方まで帰ってこないときは、このまま戻らないんじゃないかと不安に駆られたこともあった。
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