センセイの好きなもの
昔の友人のところに泊めてもらいながら働きました。紡実を迎えに行こうと思ったけど、会わす顔がなくて…」



「ツムと再会したのは本当に偶然ですか？」



巧先生の声が急に冷たさを帯びた。

母は少しうつむいて言った。


「偶然です。あの近くに友人の経営しているスナックがあって、そこで働いているときに偶然見かけたんです。10年会っていなかったけど、すぐに紡実だと分かった…。だけど声はかけられなくて、そのまま紡実の後をつけました」



後をつけられていたなんて全然気づかなかった…。

母はしばらく現れなかったし、どうやって家を知ったんだろうと思っていたけれど。



「紡実にどうしても会いたくて、１ヶ月ほどしてアパートの前で待ち伏せしました。嫌われて当然だし、でもそれでもいいから会いたかった」


「借金があるって毎回言ってるよね？何のための借金なの？私がどこに引っ越してもいつも見つけて現れる。どうしてなの？」


新しい暮らしに慣れた頃に、いつも母は現れる。私の生活をめちゃくちゃにしていく。
< 209 / 234 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop