センセイの好きなもの
「借金はあと300万…。あの人に、贅沢をさせてもらったお金。家を追い出されたとき、返済しろと脅されたわ。でも借金のことは口実。私は紡実に会いたかった…傍に居たかった…一緒に暮らしたかった…。でもそんなこと言い出せなくて…。紡実を探し出すのは探偵に頼んだり、昔のホステス仲間に紡実の写真を渡しておいて、見かけたら教えてくれるように頼んでおいたの」


「ふざけないでよ!だったら最初からそう言えばいいじゃない。ことごとく私の職場にまで現れて、お金の話して、その度に私は仕事を辞めた。お金に困ってるなら分かるでしょ?私だって生きていくのに精一杯なの!」



爆発しそうな気持ちをどこにもぶつけられなくて、代わりにテーブルを叩きつけてしまった。
両手がヒリヒリする。

巧先生がびっくりしているのが分かる。


本当なら母を叩いてやりたいところだけど、そんなことをしても私の気持ちが治まるわけじゃない。



「ツム、落ちつけ」


巧先生は両手で私の手を包んでくれた。
大きくて骨ばった、体温の高い暖かい手。
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