センセイの好きなもの





何でこんなことになっているのか分からない。


仕事がまだ残っていたのに、親父に連れられて駅前のビジネスホテルにやって来た。

ここにツムの母親が泊まっていて、親父だけで来ればいいものをどうして俺まで…。



親父とツムの母親―――三上悦子は向かい合って座っている。
俺は座る気にもなれなくて、立ったまま壁に寄りかかりながら二人を見ていた。


あのとき俺は窓のブラインドを締めようとしていた。
そしたらツムが誰かに話しかけられているのが目に入って、それが母親だとすぐに分かった。

顔が似ているかといったらそこまで似ていない。髪もツムは天パでクルクルしてるけど、この人は違うし。

だけど嫌な胸騒ぎがしたんだ。



「こんな時間にお訪ねしましてすいません」


「いえ。私のほうこそ昼間はご迷惑をおかけしまして…」



あれから親父はこの人と少し話をしたらしい。


ツムの出生からこれまでのこと、今の生活のことも。
今は地元で暮らしながら昔の仲間がやっているスナックで働いているらしい。
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