センセイの好きなもの
ただ、今でも肝臓が悪いらしく酒は飲めないとのこと。

ツムがうちで働いていることや住んでいるところは探偵に頼んで調べてもらったらしい。

俺に道を尋ねたのも全部知っていてのことだという。



この人が女としての幸せを取ったのは仕方ない。それは俺が口出しすることじゃない。
許せないのはツムを苦しみ続けてきたことだ。



「ツムちゃんとはこの先どうなさるつもりなのかと気になってしまって。僕も親ですから。コレが倅なんですけどね」


親父は俺を指さして笑った。
笑うことないだろ。



「私はあのとき紡実を捨てました。女として幸せになりたかった。だけど紡実を忘れたことはありませんでした。出来ればまた紡実に会いたい…。普通の親子みたいに過ごしたいです」


「今日、一言もツムに謝りませんでしたよね?」



最初から最後まで一度もそんな言葉はなかった。俺からすればまずはそれが先だと思うんだけど。


「巧、それはまた後で。すいませんね。うちは倅が大学のときに妻が亡くなっているんです。
< 215 / 234 >

この作品をシェア

pagetop