センセイの好きなもの
ピンポン、というチャイムの音が遠くで聞こえる。それからドアをドンドン叩く音。
もう、うるさいなぁ…。
「おーい、ツム!居留守か?そこにいるのは分かってんだぞ!」
大きなその声に、まどろんでいた意識が一気に目覚めた。
巧先生?!
っていうかその前に、私はどれくらい眠ってたんだろう。
急いで玄関に行くと鍵とドアを開けた。
ムスッとした表情の巧先生が仁王立ちしている。見下ろされると尚更迫力が…。
「すいません。帰ってから寝ちゃってたみたいで」
「お前、髪はボサボサだしパンダ目になってるぞ。俺のこと全然男として考えてねーだろ」
「そういうわけじゃ…。寝起きだから仕方ないじゃないですか」
鏡を見てみると、本当に酷い…。
髪は下になっていた右側がぺったんこ、跳ねているところもある。顔は見事なパンダ目。
メイクポーチの中からリムーバーを取り出して、黒く滲んだところを直した。
「ツム、メシ食った?」
「いえ。作る気にも食べる気にもなれなくて」