センセイの好きなもの
そう言うと巧先生は私の視界いっぱいに近づいてきた。

巧先生のことだから、きっとお金じゃない。
それは確信に近い。

でもそれなら私が出せる報酬って何だろう?
大好物のものを全部作ってあげるとか?
それくらいしか思い浮かばない。



「ツム」


「はい…」



巧先生の声が急に低くなる。元々低いんだけど、更に耳なじみがいいというか…普段より滑らかな感じだ。



「俺と付き合ってくれ」



まったく予想もしていなかった言葉に、何も考えられなくなって呆然としてしまう。

今、このタイミングで言う?



「返事は?」


「……いいですよ?」



ちょっと上から目線でそう答えたら、巧先生はホッとしたように笑顔になった。


事務所で働き始めたときは、まったく想像していなかったことばかりだったなぁ…。

巧先生と吉川先生の誘いを断って帰った日、巧先生は私の部屋にやって来た。
私が大好きなケーキが入った箱を持って、夕飯を食べさせてくれと。
そして内職をしていることがバレたんだ。

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