センセイの好きなもの
「大丈夫。さすがに親父にも止められたし。明日、相手の男に連絡取ってみる。出来るだけ金も取り返す。だけど、ツムの母親がただ金が欲しいだけでツムに付きまとってんなら出してもいいと思った。それでツムが解放されるなら、な。だけどあの人は隠さずに事情をちゃんと話した。生きてるんだから、いくらだってやり直せるだろ。まだ若いんだしさ」



死んでからでは何も出来ないと、よく耳にする。

巧先生は亡くなったお母様に対して、後悔しているわけじゃないんだろう。

ただ、「もしも」を考え始めたら何だって誰だってキリがない。


私の母は生きている。
言い足りないことを言うことが出来る。
ぶつかることが出来る。
親子になれるかどうかは分からないけど。



「巧先生、傍にいてくれる?」


「当たり前だろ。こんな頭にもしちゃったし」


二人して同時に笑ってしまった。確かにこんなことする人、他にいないかも。


「俺がついてる。ツムにはみんないるだろ?親父もみち子さんも颯も。だから怖がるな」


そうだった。私は一人じゃない。もう、臆病にはならない。しっかり生きなくちゃ。
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