センセイの好きなもの
♢紡実と巧
一年後。
7月の日差しはとても強い。
晴れて気温が上がる日は真夏同然の天候だ。
洗濯物を干すだけで汗をかいてしまう。
だけど巧先生の家のベランダは眺めがいい。
大通りが見えるから、夜は車のライトやビルのネオンでちょっと夜景が楽しめる。
それに窓から入ってくる風も気持ちいい。
「ツムー!お袋さん、何時に来るって?」
「お昼くらいになるって言ってましたよ」
私は母とつかず離れずの距離を取っている。
母は地元で暮らしているし、時々メールや電話をするけれど、ほとんど会っていない。
お正月に巧先生と一緒に母に会いに行ったきりだ。
巧先生が新年の挨拶に行こうと言って、それで会いに行った。
一年前、巧先生は母の借金を解決してくれた。
相手の人と何度も話し合って、その人も弁護士を立てていたようだけど、最終的に和解にこぎつけてくれた。
お金は全額戻ってきて、巧先生は本当に無報酬でやってくれた。母がちゃんと払うと言っても一銭も受け取らなかった。