センセイの好きなもの

♢紡実と巧









一年後。




7月の日差しはとても強い。

晴れて気温が上がる日は真夏同然の天候だ。

洗濯物を干すだけで汗をかいてしまう。


だけど巧先生の家のベランダは眺めがいい。
大通りが見えるから、夜は車のライトやビルのネオンでちょっと夜景が楽しめる。

それに窓から入ってくる風も気持ちいい。



「ツムー!お袋さん、何時に来るって?」


「お昼くらいになるって言ってましたよ」



私は母とつかず離れずの距離を取っている。

母は地元で暮らしているし、時々メールや電話をするけれど、ほとんど会っていない。

お正月に巧先生と一緒に母に会いに行ったきりだ。

巧先生が新年の挨拶に行こうと言って、それで会いに行った。



一年前、巧先生は母の借金を解決してくれた。
相手の人と何度も話し合って、その人も弁護士を立てていたようだけど、最終的に和解にこぎつけてくれた。
お金は全額戻ってきて、巧先生は本当に無報酬でやってくれた。母がちゃんと払うと言っても一銭も受け取らなかった。
< 223 / 234 >

この作品をシェア

pagetop