センセイの好きなもの





巧先生のお母様のお墓は東京から車で2時間ほど。

海の近くで、庭園からは海が見える。潮の匂いが風に乗って流れてきて、不思議と落ちつく場所だ。


駐車場に着くと、すでに大先生の車が止まっていた。大先生は用があるからと現地集合になったのだ。



「いい場所ですね」


母は車から降りると、辺りを見渡してそう言った。


「父の先祖たちと同じお墓なんです。両親は離婚もしましたけど、母には身寄りもないですし…。両親は再婚しませんでしたけど、家族であることには変わりはないから同じお墓にしようってなって。いずれは親父も僕も、それからツムもここに」



私はお供えのユリの花を持って車から降りると、巧先生がそれを持ってくれた。
大きな花束で、車内にはユリの香りが充満している。私は好きだけど、強い香りが苦手な人には辛いかも知れない。



「私も老後くらいはパートナーが欲しいわ。このままだと一人でお墓に入ることになっちゃう」


母は「嫌だわ」と言いながら笑った。
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