センセイの好きなもの
ツムは半袖のシフォンブラウスにスキニージーンズ、スニーカー。それに大きなトートバッグ一つと重たそうなビニール袋を持っていた。
それにしても荷物それだけって、随分簡単な里帰りだなおい。
でも泊まる予定はなかったわけだし当たり前か…。


「ツムー!」


窓から身を乗り出して名前を呼びながら手を振っていると、それに気づいたツムが大慌てで走ってきた。
(良い子は大声で名前を呼んだりしないように!迷惑だからな)


「ちょ、ちょっと!何なんですか」


「見て分かるだろう。迎えに来たんだよ。ほらっ、早く乗れ」


助手席に座っていた俺はドアを開けて降りると、運転席に回る。
ツムは足元にビニール袋を置いてからようやく席についた。


「先生、あんなに大声で呼ばないでください。ジロジロ見られて恥かきました」

ツムは口を尖らせてむくれている。

「お前がキョロキョロするから見られるんだろ」

なぜだか分からないけれど、今隣にツムがいることにとても安心している俺がいた。
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