極道一家のマヤ
バタバタと駆け寄って来る足音と共に、誰かがそう叫んだ。
だけど、私は特になんの反応も示さず携帯の操作を続ける。
理由は簡単。
私は「谷田」であって、「谷川」では決してないから。
でも「谷川」と叫んだ人物は直後、私の肩をつかんだのだ。
「おい、谷川!」
―ブチッ。
「はあ!?谷川じゃなくて、私は谷田……って、美都場くん!?」
こんな美人な私の名前を間違えるなんて、どこぞの失礼な男かと思っていたら……なんと振り返った視線の先にいたのは、美都場くんだった。
「美都場くん……!!」
瞬時に、駆け寄ってきていた美都場くんのカッターシャツへと飛びかかる。
よかった……
自分じゃどうしたらいいのかわからなくて、龍に電話をしようと思っていたけど……頼もしい人が来てくれた。
マヤを挟んでの間接的な間柄とはいえ、名前を間違われたのはムカつくけど……
「どうした?」
「マヤが……!」
今は、そんなこといちいち気にしている場合じゃない。