素直になれたら
「あっ、ハルは今日も日直だから、一緒に帰れないんだよね...」
「ごめん、綾奈。でも今日は可愛い綾奈のボディガードを用意したから」
「へ?」
放課後。
今週、私と健二は日直。
でも今日の放課後は、私だけが日直。
「綾奈の身に何かあったら困るからさ。ほら、健二。早く来て」
「ん?」
「ん? じゃないでしょうが。今日はあんたと綾奈の"二人"で帰ってもらうから」
「ええ⁉︎ でも俺、日直が...」
「そんなの私に任せなさい。どうせ今日までだし」
「は、ハル。お前、ほんと良い奴だな‼︎」
まあ、そういうことだ。
期末テスト期間の今は部活が無いため、一斉下校なのだ。
健二を応援すると言った以上、幼馴染としてはこれ位しないと(色々、悩むことはあるけど)。
二人が帰って教室がしんとした中、私は日誌を書く。
「あっ」
消しゴムを落とした瞬間、"あるもの"に気がついた。
健二の"ブレザー"。
彼の席に置かれていた。
「もう、あいつは...」
健二の匂い。
小学校の頃は、私よりも小さかったのになーなんて。
何故か、少し寂しい気分になった。
「健二...好きだよ...」
そのブレザーをぎゅっと抱きしめる。
やっぱ好きなのは抑えられない。
誰も見ていないし、いっか。
「アンタ、何してんの?」
誰も見ていない...誰も...。
「えっ」
教室のドアの前で、一人の男がこっちを呆然と見ていた。
血の気が一気に引いて、冷や汗が背中を伝う。
のっぽの黒髪眼鏡野郎。
私はこいつの顔を何と無く知っている。
いや、普通に知っている。
「の、野口 真生(まお)...」
同じ弓道部であり、同じクラスでもある。
「へぇ、笹原のこと好きなんだ」
そして、隣の席でもある。