素直になれたら
野口 真生という男
朝。
頭が痛い。目がしょぼしょぼする。肩が凝った。足が動かない。
「もう...嫌...」
下駄箱で一人、鈍い動きで靴をしまう。
思い出したくない事実。
週明けだから、あの日の翌日に"アイツ"の顔を見ずに済んだとは言え、月曜日は嫌いだ。
「あっ」「げ...」
教室に着くと、既に"奴"がいた。
まあ見たくなくても"隣の席"やから仕方ないっちゃ仕方ないんだけど。
奴=野口 真生。
同じクラス兼同じ部活兼隣の席。
先日、私の失敗で私の秘密がバレてしまった。
思い出しただけで頭が痛い。
「呑気にお勉強ですか」
「アンタ、明後日テストだぞ。随分と余裕だな」
「ははん、提出物完璧に仕上げたんで」
「俺は既に次の範囲の予習復習もしているが?」
くっそ...!!
何だ何だ何だ。
前から妙に性格悪そうだなとか思ってたけど、ムカつく!!!
周りも私達が絡んでいることが珍しいのか少し驚いたようだ。
「てか、アンタさあ...この前のこと言ってないよね?」
周りに怪しまれながらも、距離を縮めて小声で囁く。
あの日、結局二人で帰ったのだけれど、まあ言うまでもなく気まずかった。
向こうは気も使かっていないような素振りだったが、健二については触れなかった。
部活の話とか、テスト明けにある校外学習とか。
何だかんだ言って、優しいところはあるんだろうけど。
「二人で帰ったこと?」
「違う!! け、健二のこと...」
「ああ、どうでもいい」
そう言って、また勉強体制に入る。
やっぱりなんか鼻につく。
その頃、健二と綾奈は二人仲良く話していたようで。
「ハル、今日はやけに野口君と仲良いよね」
「な、暴力無しに男と話してるの初めて見たかも」
「二人、仲良いなぁ...」
「...」
昼は戦場だ。
「チョココロネ一つ!!」「チョココロネ一つください」
「あら、ごめんなさい。チョココロネ一個しかないのよ」
..........。
「またアンタかよ」
「それはこっちの台詞」
まさかまさかの購買で合流。
昼の購買の人口密度といったらもう...。
押し出し押し出されながらのなか、ただでさえ必死なのに。
しかも頼んだのが一緒のやつ。
「俺の方が早かったから、俺の勝ち。おばちゃん、これお金」
な、なななななぬ!!!?
ナチュラルにお金を払う野口。
そして愛しのチョココロネはそいつの元へ。
「ちょっと!! 抜け駆けずるくない!!?」
「別にいいじゃん。パンごときに」
「レディーファーストでしょうが‼︎」
「レディーなんて見当たらないけど」
むっっっっっかつく!!!!
【Side 綾奈】
「ねー半分でいいから頂戴よー」
「煩い」
「お腹すいたお腹すいた」
ハルが購買から帰ってきた。
いつも見たいに、チョココロネ〜♪ なんて嬉しそうな顔は伺えない。
寧ろ不機嫌みたい。
何故か野口君も一緒にいる。
二人、今日は妙に仲が良い。
私は逆に、健二君と二人で喋りながらお昼を食べていた。
ハルと野口君仲良いよね、なんて話ばかりしながら。
何だかんだ言って、健二君はハルのこと好きなんだろうな。
また彼女が羨ましくなる。
「これ、あげる」
「えっ!! アンタ、パン持ってたの!!?」
「帰りに腹すくから」
「えっ、これ駅前のパン屋さんのやつじゃん!! しかも苺乗ってる!!! 美味しそう!! 食べていいの?」
「...食べれば」
野口君、優しい人なんだなぁ。
彼は密かに女子の中でかっこいいと噂の男の子だった。
でも、女子が苦手らしく(女子情報)、誰も話しかけたことがなかった。
ハル以外は。
彼が、サッカー部に入るっていう噂を聞いて、マネージャーになったことを後悔している。
ハルと同じ弓道部だったなんて。
「んーっ‼︎ 美味!! アンタ、甘党なの?」
「文句あるか」
「何だ、可愛いとこあんじゃん」
「...う、煩い」
野口君が照れてる。
ハルも楽しそう。
気を遣わずに話せるっていいなぁ。
「綾奈ちゃん? どうしたの?」
「あっ、ごめんね健二君。何でもないよ...」
何と無くもやもやしちゃう。