恋よりもっと。~トモダチ以上カレシ未満~

恋人




「琴、今日は元気ないな」


私の長い髪を触る手。
私は横を歩く男を見上げる。
大原幾郎(おおはらいくお)、私の恋人。

背が高くて、甘い顔立ちの男
34歳、証券会社勤務。

……既婚者。


「普通だよ。いつもどおり」


「仕事で何かあった?」


「ないよ。絶好調」


私は笑って見せる。
幾郎は少し垂れた瞳を眇め、私を心配そうに見つめる。


「メシ、うまかった?」


「うん、おいしかった。さすが、幾郎。良いお店知ってるね」


さっき幾郎に連れて行ってもらったのは、少しお高めの和食のお店。
きっと、この人は仕事でああいったお店に行くのだろう。

私や寛なら、間違っても行かないようなお店だった。
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