恋よりもっと。~トモダチ以上カレシ未満~
2章
契機
幾郎を呼び出したのは木曜の夜だった。
私の方が忙しかったので、幾郎に合わせてもらったのだけど、会った瞬間から幾郎は上機嫌だった。
私からの誘いなのが嬉しいようだ。
喜ぶ幾郎を見て、胸が痛まないわけじゃない。
別れを告げるなんて騙し討ちみたいだ。
でも、幾郎にも非があるはずだ。
付き合った時、私は彼が既婚者だと知らなかった。
少し遅くなったけれど、ようやく私はこの不毛な関係を清算する。
「バルとか、嫌だった?」
私が連れてきたのはスペインバル。
気取った高級店が好きな幾郎はあまり行かない店かもしれない。
でも、静かにコースを食べながらする話じゃないと思ったのだ。