ただ、君の隣にいたいだけ
呟いた瞬間、触れた彼の唇。涙が零れてきた。こんな一方的なキス、何も嬉しくなんてない。悲しくて虚しいだけ。



でも、私の唇には温もりだけは伝わってきた。亮輔さんがちゃんとここに生きているってこと。


心配していたけれど、声を掛けることも出来なかった。だからこうして彼の体温が温かくてホッとした。


私の恋心に拍車を掛けたのは彼が私の初恋の人だったと気づいたから。だからこの気持ちはその延長戦なのかな。そんな風に思ったりもした。


でも、彼を知れば知るほど加速度を増してく恋心をもう初恋の延長戦なんかじゃ言い表したくはなかったんだ。



「花菜ちゃん、ごめん。寝ちゃってた」



熟睡している彼に背を向け、部屋を後にする。テレビを消して、タオルケットだけお腹に掛けて。久々に家事をするお母さんに代わってお店番をした。まあこんな時間に学生は来ないから暇だけど。


懐かしいな。このノートも、ハチマキも。学生の時は必須だった。運動会の時はハチマキ、余分に持って行って忘れた人に貸したりしてたんだよな。


懐かしい商品に触れて思い出に浸っていると階段を駆け下りる音がして振り向くと亮輔さんが息を切らして必死に謝っている。


ふふ、この様子なら私の秘密のキスはきっと気がついていないな。でも、慌てふためく姿がいつもとはまるで別人で笑みが止まらなかった。
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