ただ、君の隣にいたいだけ
「ああ、懐かしい。そういえば入るの本当に久しぶりです。下見ですね」



出かけようかと声を掛けられ、お母さんに伝えて亮輔さんに連れて来られた場所はそう、青池ファミリーパーク。やっぱり、デートなんて言って本当は下見じゃない。でも、想像できるかもしれない。距離感も躍動感も。



「・・・下見、なんかじゃない。遊園地デートだろ。今は、今だけはショーのことも練習もアクターのことも忘れて」



キュッと繋がれた手。彼を見ると真剣な表情で私を見ている。行こうかと繋がれた手を引かれ入場券を買って中に入る。お金を出そうとしたのに断られた。


亮輔さんのお財布にはもう千円札が一枚しか入っていない。何度も何度もお財布からお金を出して渡そうとしたのに彼は受け取ってはくれなかった。



「俺が出してあげたいから甘えてよ」



そこまで言われて断ることが出来なかった。お金がないのに下見でもないと断言して私をエスコートしようとしてくれている。


もしかしたら亮輔さんも同じ気持ちでいてくれてるって思ってもいい?


ジェットコースターにコーヒーカップ。どこの遊園地にでもある遊具ばかり。お客さんも平日とあってほとんどいない。私が知っているファミリーパークは活気で満ち溢れていた。


親子連れが多くて笑顔が咲き誇っていた。カメラを片手に写真を撮るお父さん、笑顔で子どもに手を振るお母さん。幸せそうに大きく手を振り返す子どもたち。私もそうだった。
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