ただ、君の隣にいたいだけ
白馬に乗った私の王子様は、初恋をしたあのときのように少しはにかんで照れた笑顔で私にピースサインを向けている。


シャッターを夢中で押した。私の宝物にするんだ。亮輔さんの笑顔の写真。



平日の遊園地がこんなに楽しいなんて思わなかった。ほとんど人がいないから乗り物に並ぶ必要もない。小さかった頃は回りきれなかったファミリーパークの中を二人で走り回る。



休憩をしようと座った場所はステージの観覧席。結局はここに来ちゃうなと苦笑いの亮輔さん。私は、あの場所に立つんだ。


今は二人だけだけどショーのときだけはこの観覧席、全て埋め尽くされる。ショーを見ようと楽しみにしてきてくれている人たちで。



私たちはただ、お互いに口を開くことなく、手を繋ぎあったままステージを見つめていた。失敗は絶対に許されない。


子どもたちの思い出につまらないヒーローショーを残したりなんてしたくない。



「花菜ちゃん、最後に観覧車に乗ろうか」



どれくらいの時間、黙ってステージを見つめていたのかわからない。亮輔さんの言葉でやっと我に返った。



観覧車。私が亮輔さんにドキドキした初恋の場所。ずっと覚えていたのならもっと綺麗な思い出になったのかもしれないな。はいと頷き二人で立ち上がり観覧車に足を進めた。



「ウサギの観覧車に乗せてもらっていいですか?」
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