ただ、君の隣にいたいだけ
誰もいないから構わないよと係員さんに言われて何台も観覧車を見送る。


乗り場まで来たときには閉園の音楽が園内に鳴り響いていた。もっと遊びたい、乗りたい。駄々を捏ねて困らせたな。今もまだ鳴らないでほしい。


何人かいたお客さんも帰っていく姿が見えて私と亮輔さんだけになってしまった。


「あっ、花菜ちゃん。ウサギの観覧車来たよ」



あの瞬間、二人で乗った観覧車が目の前にやってくる。先に乗ったのは亮輔さん。そうだあの日もそうだった。


乗りたいと言ったはずの私がここまで来て躊躇ったんだ。



「・・・おいで」



中からそっと手を差し伸べてくれてゆっくりと彼の手に自分の手を重ねた。今と同じように。繋がれた手は一度離され、観覧車の中でもう一度差し伸べられた。


同じようにゆっくりと重ね、観覧車に乗り込む。扉が閉められ、ここはもう二人っきりの空間。



ゆっくりゆっくり上昇していく観覧車の中、隣同士に座り移り行く景色を眺める。青池の町並みがあの日に重なって見えてくる。
< 113 / 231 >

この作品をシェア

pagetop