ただ、君の隣にいたいだけ
何もなかったふりをするのは慣れてきた。亮輔さんはあの後、すぐに家を出て行ってしまった。お母さんは深く追求してこなかったけれどきっと気がついていると思う。


最初は隣の部屋が静かで亮輔さんの荷物がなくなったことが寂しかったけれど練習に行けば会える。顔を見るだけでもホッとはできる。ああ、亮輔さん今日もちゃんと元気なんだって。



それに振られた同志の拓馬くんと話すことが練習の楽しみにもなっていた。もちろん、恋の話もする。拓馬くんもまだ彼女とはちゃんと話せていないらしい。


でも、前よりは彼も元気を取り戻してきた。拓馬くんとは同い年、更にはヒーローショーの新人というところも同じだから本当に話しているだけで気持ちが解れていく。



「俺、やっぱ花菜との立ち回りが一番やりやすいわ」



受け身の練習の他に立ち回りという練習も始まった。立ち回りも結局歌舞伎用語らしく、素手の戦い方で突きや蹴りなどを体で表現する。この間から始まったのは一対一の簡易立ち回り。


殴る側と殴られる側に分かれて練習する。ヒーローショーは実際に当てたりはしない。でも、ちゃんと当てたように見せなくちゃいけないから難しい。ローテーションで順番に相手が決まるんだけど先輩たちはすごい。


特に亮輔さんの立ち回りはすごく、全てにキレがあって目を奪われる。
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