ただ、君の隣にいたいだけ
「み、見えない」



当然、敵の顔なんて全くと言っていいほど見えない。よくこんなんで戦えるな。自分が経験するまでは知らなかった未知の世界。かっこよくテレビやヒーローショーでアクションを繰り広げているヒーローたちや怪人たちはこんな視界でよく戦えるなど真剣に感心した。でも、それには視界でアクションするのではなくて記憶でアクションをしているということ。つまり、私に課せられたものは思っていた以上に自分のなかのいろんな部分をフル活用しなくちゃいけない。

「本番当日までに全ての動きを完璧に頭に叩き込み、覚えること」

アクシーズの演技力が高いのは練習時間が多いから。練習を覚えるまでする。それで見えなくてもアクションが出来る。ただ、それだけじゃない。相手との間合いが大事。


初めから当てませんなんて見え見えのアクションじゃ見てくれている子どもたちが納得なんてしない。だから殴る人も殴られる人もそれなりの演技力が求められる。



「俺なんて最初の頃はよく当たってたぜ。アザなんて当たり前にできてたしな」



野村さんがそんな体験談を話してくれたことがあった。間合いが取れないと当たる。でも、そこで痛い態度なんて見せられない。あくまでもステージに上がれば自分はそのヒーローショーの一員。


戦隊ものの看板を背負ってるから台無しには出来ないって気持ちでその後も臨んだと。プロ根性だな。



私ももし、本番で何かアクシデントを見舞われてもその気持ちだけは持っていようって思った。
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