ただ、君の隣にいたいだけ
パタンと練習場のドアが開く音がした。拓馬くんが帰ってきたのかも。彼女とどうだったのかな。それを聞こうと思った瞬間今度は耳にガチャリと鍵の閉まる音が響く。視界が悪い分、思っていた以上に音が鮮明。



「た、拓馬くん?」



マスクを着けたまま首を左右に振り、彼の名前を呼んでみるも返事がない。なんだか怖くなってマスクに手を掛けるとその手をグッと掴まれた。



「・・・外すなよ」


「り、亮輔さん?!」



「そのまま、続けてよ。見てるから」



掴まれた手は離されてダランと垂れる。まさか亮輔さんが来るなんて思わなかった。わからない。だけど今私の目の前には亮輔さんがいるんだ。見られてる、私、今見られてるんだ。


「ねえ、早く見せてよ。肩、力抜いて」



気のせいかな。亮輔さんの声が耳元で聞こえる気がする。両肩に手を置いて力を抜くように指導してくれているのにドキドキする。邪な気持ちを払わなくちゃ。これは演技指導。


せっかく亮輔さんが個人的に教えてくれているんだから集中しなくちゃ。でも、頭で理解していても体が反応してくれない。構えるけれどうまく打てない。


その度に亮輔さんが私の肩に触れる。耳元で指導する。こんな個人レッスンもう耐えられない。
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